親から相続した家を取り壊すとき、「解体費用は相続税から差し引けるのか」「いつ壊すと税金で損をしないか」はよく聞かれる疑問です。この記事では、相続税法の条文と国税庁の説明(タックスアンサー)をもとに、解体と相続税の関係を整理します。
結論:相続したあとの解体費用は、相続税からは差し引けない
相続税を計算するとき遺産から差し引けるのは、被相続人(亡くなった人)の債務で、相続開始の際に現にあったもので、しかも確実と認められるものです(相続税法13条1項1号・14条1項)。国税庁も「被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務(借入金や未払金など)で確実と認められるもの」と説明しています(No.4126)。
相続したあとで相続人が業者と契約して払う解体費用は、亡くなった人の債務ではないので、この条件に当たりません。一方、親が生前に解体工事を契約していて、代金が未払いのまま亡くなった場合は、未払金として差し引ける債務に当たるかが問題になります。個別の判断になるので、税理士か税務署に確かめてください。
解体費用が効くのは「売ったとき」の所得税
解体費用が税金の計算で差し引けるのは、相続税ではなく、土地を売ったときの譲渡所得(所得税・住民税)の場面です。土地を売るために建物を取り壊した費用は「譲渡費用」になります(No.3255)。詳しくは家を解体して土地を売るとき、解体費用は税金で差し引ける?をご覧ください。
いつ壊すか:小規模宅地等の特例との関係
相続税でいちばん大きく効くことが多いのが小規模宅地等の特例です。亡くなった人が住んでいた家の土地(特定居住用宅地等)なら、330㎡までの部分の評価額が80%減額されます(No.4124)。解体のタイミングは、この特例の要件とかかわります。
親が生きているうちに更地にすると
特例の対象は、相続開始の直前に亡くなった人などの居住の用に供されていた宅地等で、国税庁は対象を「建物または構築物の敷地の用に供されている宅地等」と説明しています。生前に家を取り壊して更地にしておくと、相続の直前に居住用の建物の敷地ではなくなるので、この特例の対象から外れます。
相続したあと、申告期限までに壊すと
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。特定居住用宅地等の要件は、土地を取得した人によって違います(No.4124)。
| 土地を取得した人 | 特例の要件(取得者ごと) |
|---|---|
| 配偶者 | 取得者ごとの要件はない |
| 亡くなった人と同じ建物に住んでいた親族 | 相続開始の直前から申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつ、その土地を申告期限まで持っていること |
| 上の2つ以外の親族(別居の子など) | 配偶者も同居の相続人もいないこと、相続開始前3年以内に自分や配偶者などが持つ家に住んだことがないこと、土地を申告期限まで持っていることなど、6つの要件をすべて満たすこと |
同居していた親族が取得する場合、申告期限までその建物に住み続けることが要件なので、それより前に解体すると要件を満たせなくなります。別居の子が取得する場合は、土地を申告期限まで持ち続けることが要件のひとつです。どの要件に当たるかは家族の状況で変わるので、申告が終わるまでは解体や売却を急がず、先に税理士に相談するのが安全です。
売るなら:取得費加算の特例と、空き家の3,000万円控除
相続した土地や建物を売るときは、所得税に2つの特例があります。
- 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(No.3267):相続税がかかった人が、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ると、払った相続税のうち一定額を取得費に加えられます
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(No.3306):昭和56年5月31日以前に建てられた家などの条件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円(相続人が3人以上なら2,000万円)を差し引けます。建物を取り壊して土地を売る形でも使えます
ただし国税庁は、空き家の特例の要件のひとつに「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例など他の特例の適用を受けていないこと」を挙げています(No.3306)。2つを同じ家・土地で一緒には使えないので、どちらが有利かは税理士と計算してください。
まとめ:相続した家を壊す前に確かめる順番
- 相続税の申告が要るかを確かめる(遺産が基礎控除額を超えるか)
- 申告が要るなら、小規模宅地等の特例の要件を確かめ、申告期限(10か月)までの解体・売却を急がない
- 売るなら、空き家の3,000万円控除か取得費加算の特例かを比べる。解体費用は譲渡費用になる
- 解体の段取りは家を解体するときの手続き一覧、兄弟で相続したときの費用の分け方は実家の解体費用は誰が払う?へ
出どころ:相続税法 第13条・第14条・第27条(e-Gov 法令検索)、国税庁タックスアンサー No.4126「相続財産から控除できる債務」、No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」、No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」、No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」、No.3255「譲渡費用となるもの」(いずれも令和8年4月1日現在法令等)。当サイトが2026年9月27日に確認しました。この記事は制度の一般的な説明で、個別の税務相談ではありません。実際の申告は税理士か税務署にご相談ください。