実家の解体費用は誰が払う? 兄弟で相続したとき・相続放棄したときを民法で確かめる

費用・補助金

親が亡くなって実家が空き家になった。壊したいけれど、その費用は誰が払うのか。兄弟で揉めやすいところです。答えは民法に書いてあります。条文を1つずつ確かめながら、よくある場面ごとに整理します。

先に結論:場面ごとの「払う人」

場面 家の持ち主 解体費用を負担する人
相続人が1人 その相続人 その相続人
相続人が複数で、
遺産分割がまだ
相続人全員の共有(民法898条) 持分に応じて全員で(民法253条)。壊すには全員の同意が要る(民法251条)
遺産分割で1人が
実家を取得した
取得した人 取得した人(分割協議で別の決め方をしていればそれに従う)
相続放棄をした 初めから相続人でなかったことになる(民法939条) 原則として負担しない。ただし放棄の時に実家を現に占有していれば、引き渡すまで保存する義務がある(民法940条)

いちばん多いのは2行目の「兄弟など相続人が複数いて、遺産分割がまだ」という場面です。以下、この場面を中心に説明します。

相続人が複数いるとき:全員の同意と、持分に応じた負担

実家は相続人全員の「共有」になる

民法898条は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めています。遺産分割が終わるまで、実家は相続人全員の共有です。持分は法定相続分(遺言があればそれに従う)です。

壊すには全員の同意が要る

民法251条1項は、共有物に「変更」を加えるには他の共有者の同意が要るとしています。建物を取り壊すのは形も効用も大きく変わる行為なので、相続人の1人が勝手に解体業者と契約して壊すことはできません。

連絡の取れない相続人がいる場合は、同条2項により、裁判所に請求して、その人以外の共有者の同意で変更できるとする裁判を受ける道があります(2023年4月の民法改正で設けられた規定)。

費用は持分に応じて負担する

民法253条1項は「各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う」と定めています。たとえば兄弟3人が同じ割合で相続したなら、解体費用も3分の1ずつが基本です。

同条2項には、1年以内に負担を払わない共有者がいるときは、ほかの共有者が相当の償金を払ってその持分を取得できるという規定もあります。

実務では「遺産分割協議で先に決める」

揉めないためには、遺産分割協議の中で「実家は誰が取得するか」「解体費用は誰がどう負担するか」を決めて書面にしておくのがいちばん確実です。たとえば「長男が実家を取得して解体費用を負担する。そのぶん預金は多めに分ける」といった決め方ができます。協議がまとまらないときは、家庭裁判所に分割を請求できます(民法907条2項)。

亡くなった親の預金から払えるか

遺産分割の前でも、各相続人が単独で、親の預金の一部を引き出せる制度があります(民法909条の2、2019年7月から)。

  • 引き出せる額:相続開始時の預金額 × 3分の1 × その人の法定相続分
  • 計算は口座ごと。ただし同じ金融機関からは合計150万円まで(法務省令で定める上限)
  • 引き出した分は、その人が遺産の一部を先に分けてもらったものとして扱われる

たとえば親の預金が1つの銀行の1口座に600万円あり、相続人が子2人(法定相続分2分の1ずつ)なら、1人あたり 600万 × 1/3 × 1/2 = 100万円まで単独で引き出せます。もとは葬儀費用などを想定した制度ですが、使いみちは限定されていません。ほかの相続人に黙って使うと揉める原因になるので、解体費用に充てるなら事前に話し合っておいてください。

相続放棄をすれば払わなくていい?

相続放棄をすると、初めから相続人でなかったことになります(民法939条)。実家の持ち主ではなくなるので、解体費用を負担する立場でもなくなるのが原則です。ただし注意点が3つあります。

  1. 期限がある:相続の開始を知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります(民法915条・938条)。親族に「放棄する」と言っただけでは放棄になりません
  2. 壊してから放棄はできないおそれがある:相続人が相続財産を「処分」すると、単純承認(すべて相続する)をしたものとみなされます(民法921条1号)。放棄を考えているなら、実家を壊す前に弁護士か司法書士に相談してください
  3. 住んでいた・管理していた人は保存の義務が残る:放棄の時にその財産を現に占有していた人は、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存しなければなりません(民法940条、2023年4月改正)

また、相続放棄は実家だけを選んで放棄することはできず、預金などほかの財産もすべて手放すことになります。

払わずに放っておくとどうなるか

  • 管理の責任:空家法5条は、空き家の所有者や管理者に、周辺に悪影響を及ぼさないよう適切に管理する努力義務を課しています
  • 固定資産税が上がることがある:市町村から「特定空家」「管理不全空家」として勧告を受けると、土地の固定資産税の軽減(住宅用地特例)が外れます → 詳しくは空き家を解体すると固定資産税が6倍?
  • 相続登記は義務:2024年4月1日から、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法76条の2・164条)。それより前の相続でも、2027年3月31日までに登記が必要です

解体を先送りしても、所有者としての責任と税金はついて回ります。

土地ごと手放したいなら、解体が前提になる

相続した土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」(2023年4月開始)があります。ただし建物がある土地は申請できません(相続土地国庫帰属法2条3項1号)。また、共有の土地は共有者全員で申請する必要があり(同条2項)、承認されたら管理費用の10年分を考慮した負担金を国に納めます。

つまり「実家も土地もいらない」という場合でも、まず解体して更地にする必要があり、その費用はやはり相続人が負担することになります。

負担を軽くする3つの手

  • 補助金:福岡県内では41市町村が古い空き家の解体に補助を出しています(上限20万〜120万円)。福岡市などには耐震の補助の中に解体の枠もあります。契約・着工の前に申請が必要です → 福岡県の解体の補助金一覧
  • ローン:親の家を子が解体する場合でも使える「空き家解体ローン」があります。補助金を受けると金利が下がるものもあります → 福岡で解体費用に使えるローン4つ
  • 売るなら税金の特例:昭和56年5月31日以前に建てられた親の家を相続し、解体して土地を売ると、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(2027年12月31日までの譲渡。相続人が3人以上なら上限は2,000万円)→ 解体費用と譲渡所得税の記事

いくらかかりそうかは、解体費用シミュレーターや坪数別の費用早見表で目安が分かります。兄弟で分担を話し合うときは、同じ条件で2〜3社から取った見積書を並べると話が早く進みます。当サイトでは福岡県の解体業者を登録番号つきで一覧にしています。

解体が終わったら、取り壊した日から1か月以内に建物滅失登記を申請します。親名義のままの建物は相続人が申請できます。手順と福岡県内の提出先は建物滅失登記の手順と必要書類にまとめています。

家の中に残った家具・家電(残置物)は、家庭の場合は一般廃棄物で、解体の前に持ち主が市町村の方法で処分するのが原則です。産業廃棄物の許可だけでは運べません。くわしくは解体前の家財・残置物の処分にまとめています。

実家が借りた土地(借地)の上に建っている場合は、地主との関係で解体費用の考え方が変わります。借地の家を解体する費用は誰が払う?をご覧ください。

相続税との関係(解体費用は相続税から引けるか、いつ壊すと小規模宅地等の特例に影響するか)は、相続した家の解体費用は相続税から引ける?にまとめています。

出どころ:民法(第251条・第253条・第898条・第907条・第909条の2・第915条・第921条・第938条・第939条・第940条)、空家等対策の推進に関する特別措置法 第5条、不動産登記法 第76条の2・第164条、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 第2条(いずれも e-Gov 法令検索)、法務省「相続登記の申請義務化について」、法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」、法務省「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」。当サイトが2026年9月26日に確認しました。この記事は法律の仕組みを説明するもので、個別の事情についての法律相談ではありません。相続放棄や遺産分割、税金の判断は、弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご相談ください。

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